こんにちは、左右公認会計士事務所のNSです。
株式を用いた報酬制度は、制度ごとに仕組みや税務上の取扱いが異なり、確定申告時に戸惑う方も少なくありません。
「外資系企業に転職したらRSUをもらった」「うちの会社でESPPに参加できるけど、税金はどうなるの?」
近年、外資系企業に勤めている方を中心に、こうしたご相談が増えてきました。
本記事では、代表的な株式報酬制度である ストックオプション、RSU(譲渡制限付株式ユニット)、ESPP(従業員持株購入制度)の3つを取り上げ、それぞれの特徴と課税ポイントを整理します。
1.代表的な3つの株式報酬制度
(1) ストックオプション(Stock Option)
ストックオプションは、従業員があらかじめ定められた価格(行使価格)で将来自社株を購入できる権利を付与される制度です。株価が上昇した場合に利益を得られるため、従業員のモチベーション向上や会社業績との連動を目的として導入されることが多く、特にベンチャー企業や外資系企業で広く活用されています。
*ストックオプションの基本的な仕組み
①権利付与(Grant)
会社が対象者に対し、将来自社株を取得できる権利を与えます。
②権利行使(Exercise)
勤続年数や業績目標の達成などの条件を満たすと権利が確定し、権利を行使すると決められた価格で株式を取得することができます。
③売却(Sell)
株式を市場で売却することで、売却益を得ることもできます。
ストックオプションには、税制上の優遇がある税制適格ストックオプションと、優遇がない税制非適格ストックオプションがあります。日本企業の場合には、税制適格ストックオプションのケースが多く、外資系企業の場合には非適格の場合が多くあります。それぞれの課税タイミングは以下の通りです。
<税制適格ストックオプション>
権利行使時には給与課税が発生せず、株式売却時のみ譲渡所得として課税されます。つまり、上記③のタイミングでのみ課税関係が生じます。
*③譲渡所得=売却価格―取得価格
<税制非適格ストックオプション>
権利を行使して株式を取得した時点で、時価と行使価格の差額が給与所得として課税されます(上記②)。その後、株式売却時には売却価格と取得価格の差額が譲渡所得として課税されます(上記③)。税制非適格ストックオプションでは、「権利行使時点で給与課税」と「売却時点で譲渡課税」という二段階の課税が発生します。
*②給与所得=権利行使時の株価―行使価格
*③譲渡所得=売却価格―取得価格
税制適格と非適格では課税タイミングや計算方法が異なるため、自身のストックオプションがどちらに該当するかを事前に確認しておくことが重要です。
(2) RSU(Restricted Stock Unit:譲渡制限付株式ユニット)
RSU(譲渡制限付株式ユニット)は、将来の一定条件(たとえば勤務年数や業績の達成など)を満たすことで従業員に株式が付与される仕組みです。RSUは特に米国を中心とする外資系企業で多く導入されています。そのため、日本国内で働く方であっても、外資系企業に勤務している場合や海外企業の日本子会社に所属している場合には、RSUを受け取るケースが少なくありません。
*RSUの基本的な仕組み
①RSUの付与(Grant)
企業が対象者にRSU(将来一定の条件を満たした際に株式を付与する権利)を付与します。この段階では、「譲渡制限」が付されており、予め設定された一定条件(勤続年数や業績達成など)を満たすまでは株式についての処分権限はありません。
②RSUの制限解除(Vest)
勤続年数や業績達成など、予め設定された一定条件を満たすと譲渡制限が解除されます。
③取得した株式の売却(Sell)
株式を市場で売却することで、売却益を得ることもできます。
RSUの譲渡制限が解除されると、その株式の時価が給与所得として課税されます(上記②)。その後、実際に株式を売却した場合には、売却価格と取得価額の差額が譲渡所得として課税されます(上記③)。つまり、RSUは「譲渡制限解除で給与課税」と「株式売却時点で譲渡課税」という二段階の課税が発生することになります。
(3) ESPP(Employee Stock Purchase Plan:従業員持株購入制度)
ESPP(従業員持株購入制度)は、従業員が自社株を一定の割引価格で購入できる仕組みです。割引率は10~15%程度の企業が多いようです。ESPPは給与からの天引きで購入し、少額から参加できる制度もあります。ESPPは特に米国系の企業で広く導入されており、日本国内の外資系企業の従業員にも利用機会がある制度です。
*ESPPの基本的な仕組み
①自社株購入権の付与(Grant)
自社株を決められた一定の割引価格で購入することができる権利を付与されます。
②購入権の行使
自社株購入権を行使し、自社株式を市場価格より割引された価格で購入します。
③売却(Sell)
株式を市場で売却することで、売却益を得ることもできます。
ESPPで市場価格より割引された価格で株式を購入した場合、その割引額(市場価格と購入価格の差額)が給与所得として課税されます(上記②)。その後、株式を売却した際には、売却価額と取得価額との差額が譲渡所得として課税されます(上記③)。
*②給与所得=購入時の時価―購入価格
*③譲渡所得=売却価格―取得価格(※)
※譲渡所得計算時には、割引後の購入価格ではなく購入時の株式時価を取得価額として用います。
ESPPでは、「購入時点で給与課税」と「売却時点で譲渡課税」という二段階の課税が発生します。
2.株式報酬を受け取った場合の確定申告
ストックオプション・RSU・ESPPは、いずれも株式報酬として従業員に利益をもたらす制度ですが、確定申告時には手間を伴うことが多いものです。特に、権利行使・売却が複数回に分かれる場合は、それぞれの取引ごとに給与所得や譲渡所得を計算する必要があるため、申告が複雑になります。
当事務所では、外資系企業勤務の方や海外証券口座を利用している方の株式報酬に関する税務相談・確定申告のサポートも行っております。ご不明点や申告に不安がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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